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部下の目標を引き出してあげることも大切

◇部下から評価されない上司の実情

皆さんは、「部下からナメられているんじゃないか」と思ったことはありませんか?

仕事を任せ、部下と一緒に仕事をしていると、うまくいかないことも出てきます。そんなとき、部下があからさまに不満を顔に出し、上司の指示を聞き流したり、ふてぶてしい態度で話を聴き、「あなたのことは認めていません」と言っているかのようなスタンスで上司と接することがありますよね。

もしかして、自分は部下にナメられているのかと思うと、怒りも湧いてきますが、言い換えれば「部下が自分を評価していない」「自分を尊敬していない」ということです。

部下から上司として認められていないこの状況では、仕事を任せることは非常に難しくなりますし、上司としての自信もなくしてしまいます。

部下に評価されないのは、上司の「仕事の能力」の問題なのでしょうか?

部下のほうが能力があり、優秀であるためにナメられてしまうならまだ諦めがつきますが、ほとんどの場合、仕事の能力は上司のほうが優れています。部下と比較すれば、上司のほうが仕事がデキる。にもかかわらず、部下が上司を評価しない。

むしろ、仕事の能力が自分より明らかに低い上司でも、なぜか部下から尊敬を集めているケースさえあります。

つまり、部下から評価されるかどうかは、上司の仕事の能力は関係ないのです。

◇部下から見たポジショニング、あなたは何ランク?

ナメられない上司というのは、実は「ポジショニングがうまい」のです。

ポジショニングというのは「位置決め」のことです。部下から見てどの「位置」に自分がいるかを決め、その位置を取る行為を「上司のポジショニング」といいます。

部下が上司をナメているのか評価しているのかは、その「位置」が大きく影響します。位置が上がるほどに評価され、下がるほどに敬意がなくなります。

具体的には、以下のようなポジショニングランクがあります。

ランク① 「無害な人」……いてもいなくても同じ職場の同僚
ランク② 「話し相手」……仲良くおしゃべりできる相手
ランク③ 「情報屋」……役立つ情報をくれる人
ランク④ 「相談相手」……悩みを打ち明けることができ、相談に乗ってくれる人
ランク⑤ 「同志」……同じ目標を目指し、頼れる存在
ランク⑥ 「憧れ」……生き方・あり方・存在そのものが目標

では、1つずつ見てみましょう。

ランク① 「無害な人」……いてもいなくても同じ職場の同僚

一番下のランクは、いてもいなくても同じ、上司に対して関心が低く、ただ仕事を一緒にする作業仲間の位置です。

ランク② 「話し相手」…仲良くおしゃべりできる相手

休憩室であったら楽しくお話するし、挨拶もきちんと交わす。関係性はよさそうに見えて、ただの話し相手。上司として評価される位置ではありません。

ランク③ 「情報屋」……役立つ情報をくれる人

情報屋で止まってしまう上司は意外に多いです。うんちくが好きで、聞いてもないのにあれこれ教えてくれる役に立つ人。部下が本当に知りたいことや、悩んでいること、目指したい目標を引き出していないので、ただ情報をくれるだけの位置で収まってしまいます。

ランク④ 「相談相手」……悩みを打ち明けることができ、相談に乗ってくれる人

ここまでくると、上司に対して一定のリスペクトがある状態です。仕事の悩み、プライベートの悩みを打ち明け、どうしたらいいかを相談できる相手であれば、関係性は好ましい状態と言えるでしょう。しかし、悩みを相談するだけで終わっては、仕事は前に進みません。悩みから目標へと視点を昇華させる必要があります。

ランク⑤ 「同志」……同じ目標を目指し、頼れる存在

あなたは、部下の目標を把握しているでしょうか? 仕事をしている中で、部下が何を目指し、どんな力を身に付け、どんな状態を獲得したいと考えているのか、目標を引き出し、一緒に目指す「同志」。同志とは、同じ志を持つ人のことです。自分の上司が同じ志を持って頼ったり、頼られたりする関係性になれば、大変好ましい状況だと言えます。

ランク⑥ 「憧れ」……生き方・あり方・存在そのものが目標

最後は「憧れ」です。自分よりもはるかに上の存在であり、心から尊敬し、こんな人になりたい、こんな人でありたい、この人とずっと一緒に仕事をしたいと思えるような位置。もはや、ナメる・ナメないの話ではありません。

◇ポジションを上げる具体的な方法

皆さんは部下に対して、6つのランクのうち、どこに位置していると思いますか? おそらく部下が複数人いる場合には、その部下によってポジションランクが異なるのではないでしょうか。

ある部下にとっては無害な人、別の部下にとっては憧れ、また別の部下にとっては情報屋というように、部下ごとに異なるポジションに位置することが普通です。

皆さんが日々「この部下は仕事がしやすい」「この部下は仕事がしにくい」と、部下によって付き合いやすさが変わるとしたら、それは実は、あなたのポジションが違うのです。

ではどうすればポジションを高めることができるか、具体的には以下の3つのステップを踏んでみましょう。

① 自分のポジションランクを正しく把握する
② 「狙うポジション」を決める
③ ポジションを上げるためのアクションを増やす

自分のポジションランクを正しく把握するためには、「部下から見た自分」という視点が必要です。上司であるリーダーは、上司から見た部下がどんな人であるかをよく観察していると思いますが、「部下からどう見られているか」を意識している人は多くありません。部下からどう思われているのか、それをこのポジションランクに当てはめて考えてみると、自分の取るべきアクションが見えてきます。

② 「狙うポジション」を決める
次に、狙うポジションを決めます。ここで私は、基本的には⑤ランクの「同志」を狙うといいと考えています。部下との関係において、④までの関係というのは、ベストではありません。⑤か⑥の関係になると、任せやすさ、任せた後のスムーズさが飛躍的によくなります。ランク⑤の「同志」を目指すと、自然と相手の悩みも引き出せるようになるので、④は目指さず、⑤を目指すことをおすすめします。ランク⑤の部下が増えると、その中の何人かは⑥へとステップアップしてくれるはずです。

③ ポジションを上げるためのアクションを増やす
「同志」になるためには、上司も部下も目標を持っていることが前提です。上司であるあなたが部下に目標を示し、部下は自分が達成したい目標を持っていなければ、「同じ志」という状態になりません。したがって、まずあなたが目標を持つこと。そのうえで、部下の目標を引き出し、共通の目標へすり合わせて行くことが必要です。

◇相手の大切なことを大切にする

同志の関係になるには、部下の目標を引き出す必要があります。皆さんは部下の目標を上手に引き出しているでしょうか?

目標とは、掲げたら目標になるわけではありません。売上目標、達成目標など、上から与えられただけの「目標」は、形式的に掲げているだけになりがちで、本人が本当に目指したいと思えるものになっていることが重要です。

部下は、自分が何がしたいのか、どうなっていきたいのか、ということを明確に持っていないケースが多いと思います。自分の向かう方向性を自分で把握できていない部下と「同志」になることはできません。

そこで、上司は部下の目標を「本当に目指したいもの」として引き出す必要があります。

上記のような質問を、部下と時間を取って話し合い、繰り返すことで、部下の目標もはっきりしたものになって行きます。

「目標」を自分のものにするのは、社会人にとってなかなか難しいことです。

皆さんも、新入社員の頃は、目標を自分のものにできていなかったのではないでしょうか。いつしか経験を積むうちに、「絶対に達成したい」「やり遂げたい」という気持ちを育ててきたのだと思います。

上司は、そのスピードを早めてあげることが重要なのです。

部下に仕事を任せる際、「いかに仕事を進めるか」に目がいきがちですが、「上司のポジションを高める」ことに注力すると、急がば回れ、部下の目標を上手に引き出し、自分の目標を伝え、同志の関係性になることが、仕事の生産性を大きく高めることになります。

自分のポジションを高めることは、部下の大切にしていることを大切にすることです。部下が目指したい目標、部下が達成したいゴール、部下が実現したい未来、それが何かを聞き出すことは、部下が大切にしたいことを理解することと同じです。

したがって、自分のポジションを高めることは、自分のために行うことではなく、部下のためでもあるのです。部下にとって、上司が自分の大切にしていることを理解し、一緒に目指してくれることは、仕事のやりがいを大いに高めてくれます。

自分のためにも、部下のためにも、「上司のポジショニング」に着目し、相手にとってより価値の高い存在に変革できるよう、上司も努力が必要です。ぜひチャレンジしてみてください。

ダメ上司のありがち「PDCAサイクル」

◇暇になると勘違いするリーダーたち

仕事を任せた後、上司は自分の仕事を部下に渡したので、最初は教えたりフォローしたりで仕事が増える面もあるものの、部下が育てば上司には時間ができます。部下が育てば育つほど、自分が関わらなくとも仕事が進み、あなたは何もしなくとも、チームの成果をあげることができます。

さて、時間ができたあなたは何をしたらいいのでしょうか?

ただ暇になり、ニュースを読んで、たまに会議をしていればいいのでしょうか。部下の状況を把握し、褒めたり励ましたりして部下にだけ頑張ってもらえばいいのでしょうか。それとも、新たに自分のやるべき領域を見つけ、そこに注力すべきなのでしょうか。

これらはすべて、実はプレイヤーの延長線上にある考え方です。部下に仕事を任せ、自分の時間を生み出せるようになったら、プレイヤーの延長で仕事を考えてはいけません。

仕事を任せた後、何をすべきか。それはズバリ「マネジメント」です。部下に仕事を任せられる上司になったら、それは、プレイヤーからマネージャーになるべきタイミングでもあるということなのです。

では、マネジメントとは何でしょうか? 普段、よく使う言葉ですが、問われれば意外と明確に答えられません。日本語に訳すと「管理」です。売上管理、コスト管理、リスク管理、体調管理、管理職(マネージャー)、マンションの管理人……。

「ちゃんと管理しなさい、あなたの仕事は管理ですよ!」

しかし、いったい管理とは何を意味するのでしょうか。辞書には以下のように書かれています。

「組織を取り仕切ったり、施設をよい状態に維持したりすること」

(三省堂『大辞林 第3版』)

「取り仕切る」「よい状態に維持する」とありますが、具体的に何をするかは、これではよくわかりません。「マネジメントの父」と呼ばれるドラッガーは、管理をこう定義づけています。

「マネジメントとは、組織に成果を上げさせるための道具、機能、機関である」

「マネージャーとは、組織の成果に責任を持つものである」

(ピーター・F・ドラッガー)

ドラッガーは「マネジメント」という概念を考えた人物で、彼の経営学書『マネジメント』をもとに書かれた青春小説『もしも野球部の女子マネージャーがドラッガーのマネジメントを読んだら』(通称『もしドラ』。2009年ダイヤモンド社刊)は、270万部を超えるベストセラーになりました。

この定義からは、マネジメントは「道具」であるということがわかります。しかしまだ抽象的でわかりにくいのではないでしょうか。実は、プレイヤーでやってきた皆さんにとって、非常にわかりやすい考え方があります。ビジネスマンなら一度は耳にしたことがある、ある有名なサイクルです。

◇管理職とは成果を出したい事柄についてPDCAを回す人

それは「PDCAサイクル」です。このPDCAサイクルは、別名マネジメントサイクルと呼ばれます。マネジメントとは、PDCAサイクルを回してスパイラルアップさせ、成果をあげることです。言わずと知れたPDCAサイクルですが、これを使いこなしている人は、現実にそう多くはいません。

①P:プラン(計画)
②D:ドゥー(実行)
③C:チェック(検証)
④A:アクション(改善)

売上管理とは、売り上げをあげる計画を立て、実行し、検証することで改善案を考え、計画を練り直して実行し、そしてPDCAの順番でぐるぐる回し、より売り上げがあがるようにしていく行為です。コスト管理も同様に、コストの使い方について計画を立て、実行し、検証して改善し、また計画へ。体調管理とは、体調を維持するための計画を立て、実行し……(以下同文)。つまり管理職とは、何か成果を出したい事柄についてPDCAを回す人だと言えます。

プランを立て、実行し、検証して改善する。このサイクルを回す。話としては単純ですが、優秀なプレイヤーから、マネージャーに脱却できていない人は、このサイクルが回せていません。よくある4つのダメなパターンを紹介します。

①DDDDサイクル
「計画」を立てず、「検証」もせず、ただ「実行」だけしてしまうタイプです。とにかく行動、即行動、考える前に取りかかる、実行力オンリーの仕事の仕方です。成果をあげるには「行動」が必要不可欠なので、行動を重視するのは悪いことではありません。しかし部下は、あなたが計画を立てずに行動すると、あなたの思考を理解できないため、部下に仕事を任せることが難しくなります。最もプレイヤー的なスタイルと言っていいでしょう。

②PPPPサイクル
管理職になった途端、「行動力」が落ちるタイプです。自分の仕事はもう管理だけで。実行はしなくていいんだ、と「管理」の意味を履き違えて計画を立てることに注力し、計画すれども実行しないというケースです。いくら計画を立てても、実行しなければ成果があがらないことを思い出しましょう。

③PDPDサイクル
プランを立てて実行するのですが、検証するのが苦手なタイプです。イベントの企画を打ったらやりっぱなし。効果検証や改善提案を行わないので、次の年になっても前年の反省を生かせず、同じようなイベントをやってしまいます。「検証」を行うかどうかで、仕事の成長スピードは大きく変わってきます。

④DCDCサイクル
「計画」がないのに「実行」した後、「検証」だけしっかり行うというのは、部下からしたら「後出しじゃんけん」のようなスタイルです。行動の後に振り返り、検証を行う際、計画があればあらかじめ定めた計画どおりに行動できたのか、行動が成果につながったのかを確認することは非常に重要なのですが、計画がない行動を、後になって「もっとこうすれば」とダメ出しばかりされたら、部下はたまらない気持ちになります。

あなたは、この4つのパターンのどれかに当てはまっていませんか?

◇部下に任せる際、PDCAのどれを任せているか?

さて、PDCAサイクルの重要性は理解いただいたと思いますが、ここで1つ質問があります。

「あなたは部下に仕事を任せる際、PDCAのどれを部下に担当させていますか?」

もしも「D(実行)」だけ落としているとしたら、それは本当にもったいないことです。あなたが考えた計画を元に、ただ実行だけする、それでは部下のポテンシャルを引き出すことはできません。計画をつくるトレーニングをする必要があります。

仕事に取りかかる(D)前に、計画をつくらせる。その計画を一緒にみてアドバイスをすることでムダな行動が減り、成果をあげる計画設計ができるようになります。

それができたら「検証」も自分でできるように育てる必要があります。データを集めて成果を確認し、より成果を出すにはどうしたらいいか、改善提案を出してもらうのです。

このようにPDCAサイクルそのものを任せることができると、部下の成長スピード、主体性が飛躍的にあがります。したがって、あなた自身がPDCAサイクルを回せるようになったら、今度は部下がPDCAサイクルを回せるように育成しましょう。

◇どの程度未来に見通しを持てている?

マネジメントができるというのは、「計画性」を高めることでもあります。計画があるから検証することができ、改善に向かうことができます。

計画がなければ、成果が出たとしてもそれがたまたまなのか、狙って取れたのか、判別がつかず、成果の再現性が著しく低くなってしまうからです。

仕事を任せて時間ができたら、上司は「計画性」を高めるべきです。人を動かすには明確な「計画」が必要です。計画がなくても実行できるのは自分だけです。何でも自分でやってしまう人は計画を立て、他人と共有するのが苦手な傾向にあります。

では、あなたはどのくらい先の未来を見据えて計画を立てていますか?

明日の計画を持っているビジネスマンは多いと思います。明後日の計画もおそらく持っているでしょう。ですが、1週間後はどうでしょうか? 1カ月後はどうですか? 3カ月後、半年後、1年後、3年後、5年後、10年後……。先の未来になればなるほど、計画性は乏しくなるのではないでしょうか。

仕事を任せることによってできた時間を、将来の計画立案に費やし、計画を元に実行したら、それを検証しましょう。すると改善点が見つかるので、新たな計画を練り直します。このプロセスを通じて、あなたの仕事の生産性を変えることが重要なのです。

「おのを研ぐ」という表現があります。仕事を「木を切ること」だとすると、ただやみくもに、何の計画もなく木を切るだけでは生産性はあがりません。いつおのを研げばいいのか、どのくらい木を切ればいいのか、計画に基づいて取り組み検証することで、生産性が飛躍的に上がるはずです。毎日生産性を追い求めるからこそ、仕事の質と量は向上していくのです。

では、仕事を任せた後、上司は何をするべきか。それは、まずあなた自身が計画を持ち、実行して検証、改善するプロセスを持つこと。次に、部下にDだけでなく、PDCAサイクルそのものを任せ、部下をマネジメントができる人材に育てること。このサイクルをぐるぐる回すことで次のビジョンが見つかり、さらにPDCAサイクルを効果的に回していくことができます。

そうすれば、あなたは、暇をもてあましたり、誰かのモチベーションアップだけで1日が終わったりすることもありません。取り組むべきマネジメントに着手し、マネージャーへの脱皮を図っていきましょう。

必要なのは「威厳」ではなく魅力的なビジョン

◇あなたは「ビジョン」を描けていますか?

あなたには、ビジョンがありますか? 仕事を任せるときに、部下があなたのビジョンに共感しているかは重要です。

あなたのビジョンに共感していなければ、部下はただ与えられた作業をするだけです。ビジョンに共感した部下だけが自主的に考え、行動するようになります。

また、ビジョンがない状態だと、部下は何を目指せばいいのかがわからず、頑張る方向性もわからなくなります。

仕事を任せ、共通のビジョンに燃える部下をつくりたいのなら、あなたが魅力的なビジョンを描かねばなりません。

しかし、ビジョンとは何かを理解し、実際に描けているリーダーはまれです。「任せ上手の上司」になるには、ビジョンの重要性を正しく理解し、それを明確に描けるリーダーになる必要があります。

では、ビジョンがない組織には、どんな弊害があるのでしょうか。以下の5つが挙げられます。

① 問題を放置する

ビジョンがない組織は、問題があっても、それを解決しようとしません。向かう方向性が一致していないので、一生懸命解決しようにも、それが組織としていいことなのかすらわからず、取り組もうとしてほかのメンバーともめるくらいなら、放置しておいたほうがいいという判断になってしまいがちです。

その結果、皆が問題に気づきながら誰も解決しようとせず、ずっと同じ問題に直面し続ける状態になります。

② 他人のせいにする

問題を放置し続けた結果、「誰かこの状態を何とかしてくれ」とみんなが他力本願になります。「この問題が解決しないのは、優秀なリーダーがいないからだ」「あの人がいるから仕事が楽しくない」と皆が自分以外の誰かのせいにして、何も解決に向かわない状態になります。

時々誰かが立ち上がって変化を起こそうとすると、それを批判する人が現れ、他人のせいにして批判だけしている人」がいちばん合理的な行動だという、歪んだ風土ができあがってしまいます。

◇不満が出続け、「ことなかれ主義」の組織に…

③ 愚痴と噂話が多い

とはいえ問題はなくなりませんから、仕事をするうえでは不満が出続けることになります。解決に向かわない不満は愚痴に変化し、気の合うメンバーでグループができあがり、内輪で誰かを悪者にする愚痴り合いが横行します。

何かネガティブな情報は、噂話として瞬時に伝わるものの、誰もそれを直接本人に確かめるようなコミュニケーションが存在しないので、噂話が真実としてはびこってしまいます。

④ 全体的に覇気がない

その結果、組織には「もっとよくしていこう」という意欲や気概を持った人が減り、覇気が失われ、「ことなかれ主義」の組織になります。

⑤ 変化を嫌う人が多い

この状態が長く続くと、変化すること自体がおっくうになり、変化しようとする人を叩く、「出る杭を打つ文化」へとまっしぐらです。

いかがですか、こんな組織、嫌ですよね。仕事を任せようと思っても、こんな組織では誰も新しい仕事をやりたがらないし、任せ方が少し雑だっただけで、ものすごい悪評を陰で言われるような体質になってしまいます。そこには、一緒に目指す仲間意識や助け合いの精神は存在しません。

そして、これら5つの特徴は「組織にビジョンがないこと」によって、徐々に広がっていきます。さらには、組織を変えようとする優秀な人ほど、その組織からいなくなるという悪循環が生まれてしまいます。

組織には、ビジョンが必要です。世の中のリーダーが、なぜビジョンが描けないかというと、ビジョンを難しく考えすぎているからだと私は思います。

ビジョンは、何か壮大なストーリーでなければいけないとか、将来が見通せるような先見性が必要なんじゃないかとか、プレゼンがうまくないといけないとか、リーダーにカリスマ性がいるのではないかとか……。とにかく難しいものだと思っている人が多いのですが、まったくそんなことはありません。

ビジョンとは、誰にでも描くことができる、極めてシンプルなものなのです。かつ、きちんと順番を追って描くことで、誰にでも共感してもらえるビジョンに変換が可能だという点も付け加えて覚えておいてください。

その具体的な解消策を紹介します。

◇魅力的なビジョンとは何か?

まず、ビジョンの定義を自分のものにしましょう。ビジョンとは、「映像のように鮮明な将来像」のことです。将来というのは、遠い将来でなくてもかまいません。今よりも未来であれば将来です。像のように鮮明というのは、相手の頭にリアルにイメージさせられればOKということです。

例えば、家族に向かって「今週の土曜日にディズニーランドに行こうか」と提案し、皆が「いいね!」と乗ってきたなら、ビジョンに共感してもらえたということになります。ディズニーランドのよさを知っている人に「ディズニーランドに行こう」と伝えれば、相手の頭の中にも将来像が浮かぶわけですから、ビジョンはすべて伝えなくても十分伝わります。

皆さんが飲食店の店長で、いいお店にしたいなら、実際に別のいいお店をみんなで見にいって「オレはこんなお店にしたいんだ」というだけで十分ビジョンは伝わります。

世の中には組織に関する情報はたくさんありますから、テレビでもブログでも書籍でも、自分の理想とする組織に近いものを見つけ、それを共有し「自分がつくりたい組織はこれなんだ」と言えば、立派なビジョンメイキングです。

まとめると、魅力的なビジョンを描く手順は以下のとおりです。

① 魅力的な別の組織を見つける。
② その組織について、自分が知っているのと同じくらいメンバーに理解してもらう。
③ 「こんな組織にしたい」と伝え、その組織のどの部分を取り入れたいのか具体的に共有する。
④ その組織を知って、どう感じたか、同じように目指したいと思えたか質問をする。
⑤ 同じように目指したいと思えた部分に対してメンバーと一緒に取り組む。

たったこれだけのことで、ビジョンの共有はできてしまいます。魅力的な組織を見つけて共有することは、誰にでもできます。プレゼン力やカリスマ性は必要ありません。そもそも、部下をひきつけるべき対象は「ビジョン」であって、「あなた自身」ではありません。

あなた自身の魅力やカリスマ性で部下をひきつけるのではなく、あなたが描く「ビジョン」に相手をひきつける必要があるのです。たったこれだけのことを、やっていないリーダーが実は多くいるのです。

このように、簡単に描けてしまうビジョンですが、そのビジョンには2つの条件があります。

① みんなの求めるビジョンであること。
② 自分個人のためのビジョンではないこと。

ビジョンを描くこと自体は誰でもできるのですが、ビジョンを書き出してみると、意外と自分本位のビジョンになっていることが多いのです。自分の目標を達成したい、自分(だけ)が実現したい未来を追いかけているというのはよくあることです。

例えば、あなたが部門の売り上げを1.5倍にしたいと考えていたとします。それは、誰のためでしょうか? 本当は、あなたの部門の商品を購入する「顧客のため」や、一緒に取り組む「仲間のため」だったとしても、それを皆に伝えず単純に「売り上げを1.5倍にした未来を共有」しただけなら、それは「みんなの求めるビジョン」にはなりません。

それどころか「◯◯さんは、自分が出世したいからあのビジョンを掲げたんだ」と陰口を叩かれかねません。

ビジョンを描いた後、それが「みんなの求めるものなんだ」ということをはっきりと伝える必要があります。

そこで、BAF法が役に立ちます。

① B:ビフォー
② A:アフター
③ F:フューチャー

この順番でビジョンを伝えると、うまくいきます。

① B:ビフォー
ビフォーとは、自分のつらい過去や苦い思い出を指します。今目指したいと思っているビジョンは、自分のつらい過去、苦しい思い出がきっかけになっていないでしょうか? 過去のネガティブな経験がベースにあると、ビジョンへの共感度は非常にあがります。

② A:アフター
アフターは、現在の思いです。過去のつらい思いをほかの人に味わってほしくない、その気持ちが、これから向かうビジョンの原動力になっていることを伝えます。

③ F:フューチャー
その結果、どんな未来をつくりたいのかを伝えます。多くの場合、このフューチャーだけをビジョンだと思いがちなのですが、ビフォー、アフターを踏まえてフューチャーを語ることで、ビジョンの説得力とその背景にある想いに共感してもらうことができます。

◇BAF法を使うと、みんなの求めるビジョンに変換できる

例えば、「出世したい」という個人的なビジョンもBAF法を使うとみんなの求めるビジョンに転換することができます。

B:出世していなかったことによってつらかった過去

A:過去のつらい思い出をほかの人に味わってほしくない現在の思い

F:つくりたい未来

いかがでしょうか? 個人的なビジョンが、みんなの求めるものに変換できてしまいました。

ビジョンを描くことに対して、難しく考えすぎる必要はありません。やりたいことを書き出し、自分のビジョンに近い組織を見つけて共有し、語る際は「BAF法」でプレゼン設計をすれば、みんなの求める魅力的なビジョンを描くことができるのです。