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部下が自発的に動き出す、管理職の5つの心得

部下が自発的に動き出す、管理職の5つの心得

必要なのは「威厳」ではなく魅力的なビジョン

◇あなたは「ビジョン」を描けていますか?

あなたには、ビジョンがありますか? 仕事を任せるときに、部下があなたのビジョンに共感しているかは重要です。

あなたのビジョンに共感していなければ、部下はただ与えられた作業をするだけです。ビジョンに共感した部下だけが自主的に考え、行動するようになります。

また、ビジョンがない状態だと、部下は何を目指せばいいのかがわからず、頑張る方向性もわからなくなります。

仕事を任せ、共通のビジョンに燃える部下をつくりたいのなら、あなたが魅力的なビジョンを描かねばなりません。

しかし、ビジョンとは何かを理解し、実際に描けているリーダーはまれです。「任せ上手の上司」になるには、ビジョンの重要性を正しく理解し、それを明確に描けるリーダーになる必要があります。

では、ビジョンがない組織には、どんな弊害があるのでしょうか。以下の5つが挙げられます。

① 問題を放置する

ビジョンがない組織は、問題があっても、それを解決しようとしません。向かう方向性が一致していないので、一生懸命解決しようにも、それが組織としていいことなのかすらわからず、取り組もうとしてほかのメンバーともめるくらいなら、放置しておいたほうがいいという判断になってしまいがちです。

その結果、皆が問題に気づきながら誰も解決しようとせず、ずっと同じ問題に直面し続ける状態になります。

② 他人のせいにする

問題を放置し続けた結果、「誰かこの状態を何とかしてくれ」とみんなが他力本願になります。「この問題が解決しないのは、優秀なリーダーがいないからだ」「あの人がいるから仕事が楽しくない」と皆が自分以外の誰かのせいにして、何も解決に向かわない状態になります。

時々誰かが立ち上がって変化を起こそうとすると、それを批判する人が現れ、他人のせいにして批判だけしている人」がいちばん合理的な行動だという、歪んだ風土ができあがってしまいます。

◇不満が出続け、「ことなかれ主義」の組織に…

③ 愚痴と噂話が多い

とはいえ問題はなくなりませんから、仕事をするうえでは不満が出続けることになります。解決に向かわない不満は愚痴に変化し、気の合うメンバーでグループができあがり、内輪で誰かを悪者にする愚痴り合いが横行します。

何かネガティブな情報は、噂話として瞬時に伝わるものの、誰もそれを直接本人に確かめるようなコミュニケーションが存在しないので、噂話が真実としてはびこってしまいます。

④ 全体的に覇気がない

その結果、組織には「もっとよくしていこう」という意欲や気概を持った人が減り、覇気が失われ、「ことなかれ主義」の組織になります。

⑤ 変化を嫌う人が多い

この状態が長く続くと、変化すること自体がおっくうになり、変化しようとする人を叩く、「出る杭を打つ文化」へとまっしぐらです。

いかがですか、こんな組織、嫌ですよね。仕事を任せようと思っても、こんな組織では誰も新しい仕事をやりたがらないし、任せ方が少し雑だっただけで、ものすごい悪評を陰で言われるような体質になってしまいます。そこには、一緒に目指す仲間意識や助け合いの精神は存在しません。

そして、これら5つの特徴は「組織にビジョンがないこと」によって、徐々に広がっていきます。さらには、組織を変えようとする優秀な人ほど、その組織からいなくなるという悪循環が生まれてしまいます。

組織には、ビジョンが必要です。世の中のリーダーが、なぜビジョンが描けないかというと、ビジョンを難しく考えすぎているからだと私は思います。

ビジョンは、何か壮大なストーリーでなければいけないとか、将来が見通せるような先見性が必要なんじゃないかとか、プレゼンがうまくないといけないとか、リーダーにカリスマ性がいるのではないかとか……。とにかく難しいものだと思っている人が多いのですが、まったくそんなことはありません。

ビジョンとは、誰にでも描くことができる、極めてシンプルなものなのです。かつ、きちんと順番を追って描くことで、誰にでも共感してもらえるビジョンに変換が可能だという点も付け加えて覚えておいてください。

その具体的な解消策を紹介します。

◇魅力的なビジョンとは何か?

まず、ビジョンの定義を自分のものにしましょう。ビジョンとは、「映像のように鮮明な将来像」のことです。将来というのは、遠い将来でなくてもかまいません。今よりも未来であれば将来です。像のように鮮明というのは、相手の頭にリアルにイメージさせられればOKということです。

例えば、家族に向かって「今週の土曜日にディズニーランドに行こうか」と提案し、皆が「いいね!」と乗ってきたなら、ビジョンに共感してもらえたということになります。ディズニーランドのよさを知っている人に「ディズニーランドに行こう」と伝えれば、相手の頭の中にも将来像が浮かぶわけですから、ビジョンはすべて伝えなくても十分伝わります。

皆さんが飲食店の店長で、いいお店にしたいなら、実際に別のいいお店をみんなで見にいって「オレはこんなお店にしたいんだ」というだけで十分ビジョンは伝わります。

世の中には組織に関する情報はたくさんありますから、テレビでもブログでも書籍でも、自分の理想とする組織に近いものを見つけ、それを共有し「自分がつくりたい組織はこれなんだ」と言えば、立派なビジョンメイキングです。

まとめると、魅力的なビジョンを描く手順は以下のとおりです。

① 魅力的な別の組織を見つける。
② その組織について、自分が知っているのと同じくらいメンバーに理解してもらう。
③ 「こんな組織にしたい」と伝え、その組織のどの部分を取り入れたいのか具体的に共有する。
④ その組織を知って、どう感じたか、同じように目指したいと思えたか質問をする。
⑤ 同じように目指したいと思えた部分に対してメンバーと一緒に取り組む。

たったこれだけのことで、ビジョンの共有はできてしまいます。魅力的な組織を見つけて共有することは、誰にでもできます。プレゼン力やカリスマ性は必要ありません。そもそも、部下をひきつけるべき対象は「ビジョン」であって、「あなた自身」ではありません。

あなた自身の魅力やカリスマ性で部下をひきつけるのではなく、あなたが描く「ビジョン」に相手をひきつける必要があるのです。たったこれだけのことを、やっていないリーダーが実は多くいるのです。

このように、簡単に描けてしまうビジョンですが、そのビジョンには2つの条件があります。

① みんなの求めるビジョンであること。
② 自分個人のためのビジョンではないこと。

ビジョンを描くこと自体は誰でもできるのですが、ビジョンを書き出してみると、意外と自分本位のビジョンになっていることが多いのです。自分の目標を達成したい、自分(だけ)が実現したい未来を追いかけているというのはよくあることです。

例えば、あなたが部門の売り上げを1.5倍にしたいと考えていたとします。それは、誰のためでしょうか? 本当は、あなたの部門の商品を購入する「顧客のため」や、一緒に取り組む「仲間のため」だったとしても、それを皆に伝えず単純に「売り上げを1.5倍にした未来を共有」しただけなら、それは「みんなの求めるビジョン」にはなりません。

それどころか「◯◯さんは、自分が出世したいからあのビジョンを掲げたんだ」と陰口を叩かれかねません。

ビジョンを描いた後、それが「みんなの求めるものなんだ」ということをはっきりと伝える必要があります。

そこで、BAF法が役に立ちます。

① B:ビフォー
② A:アフター
③ F:フューチャー

この順番でビジョンを伝えると、うまくいきます。

① B:ビフォー
ビフォーとは、自分のつらい過去や苦い思い出を指します。今目指したいと思っているビジョンは、自分のつらい過去、苦しい思い出がきっかけになっていないでしょうか? 過去のネガティブな経験がベースにあると、ビジョンへの共感度は非常にあがります。

② A:アフター
アフターは、現在の思いです。過去のつらい思いをほかの人に味わってほしくない、その気持ちが、これから向かうビジョンの原動力になっていることを伝えます。

③ F:フューチャー
その結果、どんな未来をつくりたいのかを伝えます。多くの場合、このフューチャーだけをビジョンだと思いがちなのですが、ビフォー、アフターを踏まえてフューチャーを語ることで、ビジョンの説得力とその背景にある想いに共感してもらうことができます。

◇BAF法を使うと、みんなの求めるビジョンに変換できる

例えば、「出世したい」という個人的なビジョンもBAF法を使うとみんなの求めるビジョンに転換することができます。

B:出世していなかったことによってつらかった過去

  • 自分の無力さが原因で大きなミスを犯した。部下が辞めた。会社に迷惑をかけた。
  • もしももっと自分に力があったら、あの問題を解決できた。
  • 自分は上にいかなきゃいけないと思った。
  • 会社の上層部に入って力をつけ、多くの人の役に立つ自分になりたいと思った。

A:過去のつらい思い出をほかの人に味わってほしくない現在の思い

  • 今、こうして部下ができて、以前よりは力を持てた。
  • でも、まだまだだと思っている。もっと多くの人の力になりたい。

F:つくりたい未来

  • 会社の上層部にあがることで、会社の大きな問題を解決したい。
  • もっと社会に対してインパクトを与えられる存在になりたい。

いかがでしょうか? 個人的なビジョンが、みんなの求めるものに変換できてしまいました。

ビジョンを描くことに対して、難しく考えすぎる必要はありません。やりたいことを書き出し、自分のビジョンに近い組織を見つけて共有し、語る際は「BAF法」でプレゼン設計をすれば、みんなの求める魅力的なビジョンを描くことができるのです。